ピアノ誕生以前

1.クラヴィコード

 クラヴィコードは紀元14世紀ごろの誕生といわれています。構造はいたって簡単で、二つの駒の上に張られた弦をタンジェントと呼ばれる別の駒が弦を突き上げることによって発音します。結果、音量は現在のピアノと比べると非常に小さいです。また、特徴としては演奏者が打弦した鍵盤を 縦にゆらすことにより、ヴィブラートをかけられることです。

 ルネッサンス期(16世紀)に主流であったクラヴィコードは音域は4オクターブ程度、J.S.バッハの愛用したクラヴィコードは5オクターブあったそうです。クラヴィコードの音量は、せいぜいピアニッシモからメゾ・ピアノ程度で合奏や演奏会むきではなく、バロック期(17世紀から中期)にはチェンバロ(ハープシコード)に主流の座を明渡しました。

2.チェンバロ

 バロック期(17世紀から中期)に登場したチェンバロ(ハープシコード)の構造は、二つの駒の上に張られた弦をプレクトラムと呼ばれる爪が弦をはじくことによって発音します。クラヴィコードよりは音量は大きい反面、音の強弱をつけられないという欠点がありました。しかし、当時の上流階級に愛されてなくてはならない楽器となりました。

 ハープシコード(英語)、チェンバロ(ドイツ語)、クラヴィアサン(フランス語)、クラヴィチェンバロ(イタリア語)と各国で別名で呼ばれていますが同じ楽器です。それだけ多くの国で愛されていた楽器ではないでしょうか。フランスではクープラン、ラモーなどの作曲家がチェンバロ用の曲を多数つくりました。
 ドイツではあまり主流にはならなかったのか、バッハの曲でさえ「イタリア組曲」と「ゴールドベルグ変奏曲」ぐらいしかチェンバロのための曲は作曲されなかったようです。

(Yama)


ピアノの誕生

1.クリストフォリのピアノ

 1709年、イタリア人の楽器製作者バルトメオクリストフォリが打弦機構を持つ新しい楽器を発明しました。打弦機構を持つことにより、クラヴィコードとチェンバロの長所(音の強弱と音量)を持つ当時としては画期的な発明であったと思われます。
 ピアノ・エ・フォルテクラヴィチェンバロ、つまり強弱の出せるクラヴィチェンバロが略されて現在のピアノという呼称が生まれたといわれています。当時はまだチェンバロ全盛の時代であり、ピアノを使って作曲を行った作曲家も歴史には残っていません。ピアノ自体が作曲家の要求を満たす演奏レベルに発展していなかったからでしょう。

 彼の製作したピアノはハンマーがフェルトではなく、羊皮紙を何層にも重ねられ表面に皮が貼られていました。アクションの伝達比率が1:8(現在のピアノは1:6)でチェンバロと同様、鍵盤あがきが6mm(現在のピアノは10mm)でありました。

2.ジルベルマンとJ.S.バッハ

 1726年、クリストフォリはエスケープメントやダンパーを発明しました。クリストフォリの弟子であるジルベルマンはそれらを改良したピアノ(ハンマーフリューゲル)を製作し、1736年J.S.バッハにこのピアノを紹介しました。J.S.バッハが1747年フレデリック大王の前でピアノを演奏したことが史実として残っています。バッハに限らず当時のドイツ人作曲家は特定の鍵盤楽器に限定しない自由なスタイルの曲を作っていました。1722年に平均律を採用したJ.S.バッハは1722年と1744年に「平均律クラヴィア集」を作曲しましたが実際にピアノを使って作曲していたという記録は残っていません。

3.J.A.スタインのピアノ

 1775年、チェンバロ製作者のスタインは独自のエスケープメント機構を備えたピアノの製作を始めました。当時としては非常に弾きやすい軽やかなタッチであったそうです。この頃になると、ピアノのハンマーアクションも完成度が高く、多くの作曲家に受け入れられるようになりました。尚、1756年オーストリアで7年戦争が勃発し、多くの楽器製作者はイギリス・フランスへ移住しました。ジルベルマン、スタイン、シュトライヒャーといった「南ドイツ・ウィーン派」とツンベ、ブロードウッド、エラール、プレイエルといった「イギリス・フランス派」に製作者を大別することができます。

4.モーツァルトとスタインのピアノ

 1777年モーツァルト(1756〜1791)はスタインのピアノを弾いて感激し、晩年までそのピアノを愛用したそうです。当時のピアノにはダンパーペダルはまだ無く、棚板下のレバーをひざで操作するタイプのダンパーでした。しかし現在のピアノのように鉄骨フレームや鋼鉄弦が使われておず、それ程音量も大きくなかったので止音が良くないダンパーであっても充分その演奏にたえるものでした。

5.ブロードウッドのペダル

 1783年、イギリスのジョンブロードウッドがペダルを発明しました。1791年没しているモーツァルトはその存在を知っていてもペダル付のピアノで作曲していた訳ではなく、本来モーツァルトの曲にはペダル記号がなかったのです。ダンパーペダルが演奏に与える効果は絶大で、ベートーベン(1770〜1827)はブロードウッドのピアノを愛用して多くのピアノ曲を作りました。ピアノの音域も5オクターブになりました。また、ブロードウッドは1808年に鋳鉄プレートを持つグランドピアノを考案しています。

6.ホーキンスのアップライトピアノ

 1800年、ホーキンスは最初のアップライトピアノを発明しました。響板を支える鉄製のフレームを持つもので、現在のアップライトピアノの原型といって良いでしょう。しかし、音量が小さくて試作で終わりました。

7.エラールのレペティションレバー

 1821年、フランス人のピエールエラールはフランス革命前にイギリスに渡って当時のピアノに多くの改良を加えました。

8.産業革命とフランス革命

 18世紀後半の産業革命により、ブルジョアと呼ばれるお金持ちの市民階級が出現し、貴族社会の象徴でもあったピアノを買い求めま始めした。
このためピアノの需要は急増し、家内工業的な少量生産では間に合わなくなり、工場による大量生産へと規模が拡大しました。そしてピアノにとって画期的ないくつかの技術が導入されました。
 また、フランス革命に代表される革命は、それまで音楽家の庇護者であった貴族社会が崩壊し多くの音楽家が職場を失いました。多くの音楽家は大衆社会に活路を見いださざるを得なくなり、演奏様式も小規模のサロンから大ホールに多くの聴衆者を集め、コンサート方式をとるようになりました。
 そのためピアノはさらに音量増大と音域の拡大が必要になり、産業革命以後大きく発展した工業技術を利用して、さまざまな改良が加えられました。
 

(Yama)